最高裁判所第一小法廷 平成9年(行ツ)224号 判決 1998年2月26日
北九州市小倉北区東篠崎一丁目一一番一一号
上告人
有限会社三貴商事
右代表者代表取締役
関弘
右訴訟代理人弁護士
坂口公一
小林弘明
尾崎毅
東京都台東区東上野二丁目一八番四号
被上告人
日本電動式遊技機特許株式会社
右代表者代表取締役
徳山謙二朗
大阪市鶴見区今津北四丁目九番一〇号
被上告人
高砂電器産業株式会社
右代表者代表取締
役濱野準一
東京都港区高輪三丁目二二番九号
被上告人
ユニバーサル販売株式会社
右代表者代表取締役
岡田和生
右当事者間の東京高等裁判所平成八年(行ケ)第一〇三号審決取消請求事件について、同裁判所が平成九年六月二四日に言い渡した判決に対し、上告人から上告があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人坂口公一、同小林弘明、同尾崎毅の上告理由について
所論の点に関する原審の認定判断及び措置は、原判決挙示の証拠関係及び記録に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難し、独自の見解に立って原判決を論難するか、又は原審の裁量に属する審理上の措置の不当をいうものにすぎず、採用することができない。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小野幹雄 裁判官 遠藤光男 裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井正雄 裁判官 大出峻郎)
(平成九年(行ツ)第二二四号 上告人 有限会社三貴商事)
上告代理人坂口公一、同小林弘明、同尾崎毅の上告理由
原判決には、以下のとおり判決に影響を及ぼすような明らかな法令の違背がある。
一1 本件実用新案権は、スロットマシン単体の制御装置に関するものであり、スロットマシン単体で打止の自動解除という所期の効果を実現するものである。一方、被上告人の引用する甲第四号証に開示されている制御装置は、複数のパチンコゲーム機の制御を一括して行うものであり、個々のパチンコゲーム機の制御とは別のものである。
このことは、甲第四号証の引用例を実施したとしても、機械単体に打止解除に関する制御機能が備えられていないとすれば、集中管理システムの備えられていない場所においては、機会単体のみでは、打止解除を行うことが不可能となることからも明らかである。
従って、本件においては、パチンコゲーム機或いはスロットマシン単体のみで打止解除が可能か否かが、本件実用新案権の進歩性の重要な判断基準となる。
上告人は右の理由から、年第四号証に引用される集中管理の制御装置を用いても、単体のパチンコゲーム機が独立して打止解除を行うようにすることはできない、従って、本件実用新案権の進歩性を認めた審決の判断には誤りはない旨主張した。
2 これに対して、原判決は、甲第四号証においても、「複数のパチンコゲーム機にはそれぞれ個別に打止信号を出力するR-Sフリップフロップ及び打止解除信号を出力するプログラマブルカウンターが設けられているから、単体のパチンコゲーム機につき独立して打止及び解除のための制御を行うことが可能な技術であると認められる」と認定して、上告人の主張を排斥した。
二 しかし、甲第四号証においては、「図において、I1’I2’I3…は多数台のパチンコゲーム機で、各パチンコゲーム機I1’I2’I3…は、アウト玉数(打込球数)が例えば一〇個に達するごとに出力端子aから1個のアウト玉計数パルスP1を出力し、且つ、セーフ玉数(賞球数)が一〇個に達する毎に出力端子bから1個のセーフ玉計数パルスP2を出力するよう構成されている」と記載きれているものの(同号証四ページ参照)、原判決の認定したように、打止信号を出力するR-Sフリップフロップ及び打止解除信号を出力するプログラマブルダウンカウンターが、個々のパチンコゲーム機に設定されている旨の記載はない。むしろ、同号証の前記記載部分及び添付図面からは、個々のパチンコゲーム機に設けられているのは、アウト玉計数パルスP1を出力する出力端子a及び、セーフ玉計数パルスP2を出力する出力端子bのみであり、打止信号を出力するR-Sフリップフロップ及び打止解除信号を出力するプログラマブルダウンカウンターは、バチンコゲーム機とは別個独立した集中制御装置内に設置されていることが前提となっており、単体のゲーム機には、打止及び解除のための制御装置は設けられていないと理解するのが素直である。
しかるに、原判決は、甲第四号証の解釈を誤り、証拠に基づくことなく、「複数のパチンコゲーム機にはそれぞれ個別に打止信号を出力するR-Sフリップフロップ及び打止解除信号を出力するプログラマブルカウンターが設けられているから、単体のパチンコゲーム機につき独立して打止及び打止解除のための制御を行うことが可能な技術であると認められる」と認定したものであり、ここに、証拠に基づかない違法な事実認定、証拠の評価における経験則違反の違法がある。
三 また、原審において、被上告人は、前記上告人の主張に対し、一括制御か、独立制御かは、「転用の容易性とは全く関係ない」旨の答弁をしたものの、単体のパチンコゲーム機につき独立に打止及び打止解除の制御を行うことが可能か否かについては、何ら具体的な答弁をしていない。被上告人の右答弁の趣旨は明らかではないが、被上告人は、右答弁の前提として、(甲第四、五号証に開示されている制御装置が、複数のパチンコゲーム機の制御を一括して行うもので、その制御装置を用いても単体のパチンコゲーム機が独立して打止制御をおこなうことができない旨の上告人の主張が)「仮に事実だとしても」と述べている点(平成九年三月一八日付準備書面第2項)、更に、本件実用新案権を、単体で制御する機械に限定されるものではないと理解している点(同項)からすれば、少なくも、右答弁において、甲第四号証が、単体のパチンコゲーム機につき独立して打止及び打止解除のための制御を行うことが可能な技術であるという認識及びこのことを主張する意思がなかったことは明らかである。
右の点が本件において重要な争点であることは前述の通りであるから、原審は、釈明権を行使して、被上告人の右答弁の趣旨を明らかにし、当該争点につき、双方に十分な主張・立証の機会を与えるべきであった。しかるに、原審は、被上告人の右答弁の趣旨を明らかにせず、漫然と訴訟を進行させ、上告人をして、当該争点についての被上告人の具体的反論がなきものと誤解させて右答弁に対する更なる詳しい主張・立証の機会を奪い、しかも、被上告人の意図するところとは異なる事実認定をした点において、釈明義務違反、弁論主義違反、審理不尽の違法がある。
右の各違法は、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違背である。
四1 更に、原判決は、<1>被上告人の引用する甲第四号証に記載の打止解除装置はパチンコゲーム機に関するものであるが、これを同じゲーム機であり、計数対象がパチンコ玉かメダルかという差異はあるもののその所定数を計数してスロットマシンを停止する打止装置を有するスロットマシンに転用することは、容易に着想しうるものであると認められる、<2>甲第四号証に記載の打止解除装置は、打止装置に電気的に接続させるものであるから、既存の打止装置にも接続可能なものと認められ、したがって、メダルの払い戻し数が所定の枚数になったときにメダル集積回路よりの打止指令を受信し、前記スロットマシンを停止する打止装置を有するスロットマシンに甲第四号証に記載の打止解除装置を適用することに何ら技術的困難性はない、<3>「人手を要さず、しかも簡便に打止装置のロックを自動的に解除できる」などの効果も、上記(右)のように構成することにより当然奏する効果であり、本件実用新案権の独自の効果とは認められない、と認定した。
しかし、原判決の右判断には、以下のとおり各法令の違反がある。以下、詳細を述べる。
2 まず、原判決の右<1>の判断は、スロットマシンが、パチンコゲーム機と「同じゲーム機であり、所定数を計数して機械を停止する打止装置を有している」との理由から、転用の容易性を導いている。
確かに、パチンコゲーム機とスロットマシンがいずれも「ゲーム機である」ことは否定できない事実であるが、「ゲーム機」も目的、仕様、構造、材質、価格等千差万別であり、技術的な転用可能性は「ゲーム機」であるそのこと自体から判断できないことは経験則上明らかであり、従って、両者がともに「ゲーム機である」ことは、それ自体では何らの意味をもたない事実であり、転用が容易であることの理由とはなりえなしことは明らかである。
3 次に、原判決は、「ゲーム機」であることの外に、いずれも「所定数を計数して機械を停止する打止装置を有している」ことを理由の一に上げている。
しかし、本件の実用新案権は、打止の「解除」に関する技術である。従って、打止装置が装着されていることは当然の前提になっており、「諸定数を計数して機械を停止する」というのは打止装置自体の内容に過ぎない。よって、かかる内容の打止装置が装着されていることと、打止解除に関する本件実用新案権が、極めて容易に転用可能な技術であるか否かということは何ら関孫がない(打止装置のみが存在しているときに打止解除装置が初めて発案された場合を想定されたい)。すなわち、本件実用新案権の進歩性を判断するには、他に転用可能な「打止解除装置」に関する考案が存在するかによって判断されるものである(だからこそ、被上告人は、パチンコに関する打止解除に関する甲第四号証を引用している)。従って、この点も理由にならないことは明らかである。
かように、原判決の右認定には、経験則違反、理由不備の違法がある。
4 また、原判決は、前記<2>において、「甲第四号証に記載の打止解除装置は、打止装置に電気的に接続させるものであるから、既存の打止装置にも接続可能なものと認められ、したがって、メダルの払い戻し数が所定の枚数になったときにメダル集積回路よりの打止指令を受信し、前記スロットマシンを停止する打止装置を有するスロットマシンに甲第四号証に記載の解除装置を適用することに何ら技術的困難性はない」として、スロットマシンの打止装置に、甲第四号証に引用した打止解除装置を接続することの技術的可能性・困難性について判断しているが、その理由とするところは、「電気的に接続させるものである」という点のみで、双方の回路のどの部分をどのように接続すればスロットマシンに甲第四号証記載の打止解除装置を適用することができるのか、その具体的接続方法については何ら言及していないのであるから、ここに、理由不備の違法がある。
5 尚、転用の技術的可能性、困難性を検討するに当たり、対象となる技術、本件で言えば、パチンコゲーム機とスロットマシンの打止装置及び打止解除装置の技術的内容を対比することが重要なことであること、被上告人自身によって、両者が技術的に近似性、類似性を持つことが主張され、被上告人がパチンコゲーム機及びスロットマシンの打止装置及び打止解除装置の構造について、技術的内容を明らかにすることが極めて容易な地位にあると認められたことから、上告人は、平成八年一〇月一七日に開かれた原審の準備手続において、右具体的技術内容を明らかにするよう釈明を求めた。
しかるに、被上告人からは、右技術的構造についての主張・立証は一切なされず、原審もこれを求めることなく審理を続けたものであり、原審が、転用の容易性判断の重要なファクターである具体的技術内容についての審理をすることなく右認定を下している点に、審理不尽の違法がある。
6 又、原判決は、前記<1>、<2>の認定をもとに、本件実用新案権には独自の効果が認められないものと認定している(前記<3>)のであるが、右に述べたごとく、右<1>、<2>の認定自体に理由不備、審理不尽の違法が見られるのであるから、これを基礎とした<3>の認定にも理由不備の違法があることは明らかである。
7 かように、原審における被上告人の主張及び引用例によっては、スロットマシン「単体」で打止を解除することが可能である本件実用新案権の進歩性が否定されないことが明らかであるにもかかわらず、原判決は、右のごとく、理由不備、審理不尽の各違法な認定判断に基づいて、本件実用新案権の進歩性を否定したものであり、ここには、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違背がある。
以上